建物の入口に貼りつけた「AEDあります」の張り紙を街のあちこちで多く見かけますが、これが今な
お、アメーバのように無軌道に増殖しているのにいやでも気付かざるをえないのは、私だけではある
まいと思っています。
AEDに関するメディアの報道は多くはないようなのですが、今年の1月4日付けの朝日新聞にやっと
その一つを見つけました。ですが、この記事は日本全国でのAEDの設置台数の驚くべき多さにはあま
り関心がないらしく、その使用率の低さばかりを問題視しているようでした。
この記事によれば、2008年末現在AED設置台数は約20万台、うち一般市民が使えるような公共施設
、商業施設、その他での設置台数は約15万台。これに対し、2008年の一年間に一般市民の前で起きた
心肺停止の件数は20769件だが、この約半数が市民による心肺蘇生の手当てで対応されたのであり、
AEDを使ったのは僅か429件だったという。
これでは、使用率の低さを嘆きたくもなるでしょうが、もっと問題視してもよい事は、医療施設等の外
での心肺停止件数が年間2万強という程度の件数だったのに、街なかのいたるところに15万台ものA
EDがあったということです。つまり2万強の心肺停止1件当り6台以上のAEDが無駄に置かれてい
たということです。
しかも、このAED設置の状況は、人口密度に比例して設置するという統制の取れたものとはとても考
えられないので、多くの場所で心肺停止1件当りの無駄な台数は6台という数字をはるかに越えたもの
でしょう。さらに、15万台あるとされた2008年末から1年半経過した現在の台数は、いまの増殖の勢
いを見れば、少なく見てもその倍の30万台、ひょっとすると40万台位にはなっているかも知れない
。心肺停止発生件数がこの1年半のあいだにそんなに増えているとも思えないので、これらの状況は、
行政不在をますます印象づけるものとなっています。
このようなAEDに地方自治体、民間企業、その他が投じる資金の額が巨大であることも見逃すことは
できません。フィリップスのAEDを売っているフクダ電子工業は、これを1台23万8千円としてい
るので、一般市民の使用に供するAEDが仮にいま30万台あるとして、この単価を単純に掛ければ総
額は実に714億円の巨額にのぼる。
AEDの設置は、行政による統制の対象にして無駄の少ない効率のよい配置を考えるべきだし、国や自
治体によるAED購入の資金の支出については、財政上の優先順位を考慮して国全体として図られた適
正なバランスに背いていないかどうかを見届けた上で、確固とした政策を策定すべきでしょう。